名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年10月


 露と散り 雫と消える 世の中に 何と残れる
心なるらん
                豊臣秀吉

(つゆとちり しずくときえる よのなかに なんと
 のこれる こころなるらん)

意味・・人生は露のようにはかなく、また雫のようにあっけ
    なく消えるものと知っているものの、やはり死が近
    づくと後に残った幼い子のことが気掛かりになって
    来る。死にたくない。
    
    秀吉の子、秀頼はまだ5歳で跡継ぎになるまで10年
    はかかるが、それまで政権の委譲が出来るように安
    定していて欲しいものだ、という気持ちを詠んでい
    ます。辞世の歌といわれています。

作者・・豊臣秀吉=とよとみひでよし。1536~1598。木下
    藤吉郎と称して織田信長に仕え、その後天下を統一
    した。

忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の
惜しくもあるかな       
                 右近

(わすらるる みをばおもわず ちかいてし 
 ひとの いのちの おしくもあるかな)

意味・・あなたに忘れられる私の身を、少しも私は
    辛(つら)いとは思いません。ただ、私への
    愛を神に誓ったあなたの命が、神罰を受け
    て縮まるのではないかと、惜しまれるので
    す。

    当時は神仏に対する信仰が強く、神に誓っ
    た愛を破ると神罰が下って命を失うに違い
    ないと信じられていた。
    相手の男に捨てられながらも、なおその男
    の身を案じるという、愛を捨てることの出
    来ない悲しみが詠まれた歌です。

 注・・忘らるる=恋をしている相手の男性に忘れ
     られる。
    誓ひてし=いつまでも心変わりせずに愛す
     ると、神かけて約束した。
    惜しく=失うのにしのびない。男が神罰を
     こうむって命を落とすことを心配する。

作者・・右近=うこん。生没未詳。十世紀前半の女
    性歌人。

出典・・拾遺和歌集・870、百人一首・38。


 鳴き弱る 籬の虫も 止めがたき 秋の別れや 
かなしかるらむ
                紫式部

(なきよわる まがきのむしも とめがたき あきの
 わかれや かなしかるらん)
 
詞書・・その人、遠きところへ行くなり。秋の果つる
    日来たるあかつき、虫の声あはれなり。

意味・・垣根のキリギリスの鳴き声が弱まっている。
    それにつけても秋の別れを止めることは出来
    ないものだなあ。

    秋の虫の鳴き声が弱まって、秋も終わろうと
    している寂しさを詠んでいます。
    なお、題意により、仲の良い友が遠くに嫁ぎ、
    別れの寂しさも重ねています。

 注・・籬(まがき)=竹や柴で粗く編んだ垣根。
 
作者・・紫式部=むらさきしきぶ。970~1016。
 
出典・・家集「紫式部集」。
 


 山城の 久世の鷺坂 神代より 春は萌りつつ
秋は散りけり
               柿本人麻呂
          
(やましろの くせのさぎさか かみよより はるは
はりつつ あきはちりけり)

意味・・ここ山城の久世の鷺坂では、神代の昔からこの
    ように春には木々が芽ぶき、秋になると木の葉
    が散って、時は巡っているのである。
 
    たえず往還する鷺坂の景が、いつの年にも規則
    正しく季節に応じて変化する様を、神代の昔か
    ら一貫してこうだったのだと感動した歌です。

注・・山城の久世の鷺坂=京都府城陽市久世神社の坂。
   萌(は)り=春に草木の芽や蕾がふくらむこと。

出典・・柿本人麻呂=かきのもとのひとまろ。生没年未詳。
    710年頃の宮廷歌人。

出典・・万葉集・1707。


 行く水は 堰けばとまるを 紅葉ばの 過ぎし月日の
また返へるとは         
                  良寛

(ゆくみずは せけばとまるを もみじばの すぎし
 つきひの またかえるとは)

意味・・流れる水は堰き止めれば止まるのに、過ぎて
    しまった月日が再び戻ってくるとは聞いた事
    がないなあ。

    堰で秋を留めると詠んだ歌として、
    「落ちつもる紅葉を見れば大井川いせきに秋
    もとまるなりけり」があります。
              (意味は下記参照)

    うかうかしていると、生き生きとした盛んな
    年頃は過ぎ去って行く。二度と同じ月日はも
    う戻って来ない。

 注・・紅葉ばの=「過ぎ」の枕詞。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。

参考歌です。
落ちつもる 紅葉を見れば 大井川 ゐせきに秋も
とまるなりけり    
                 藤原公任
意味・・大井川の堰(いせき)に散り落ちて積もっている
    紅葉をみると、堰は水をせき止めるだけでなく
    紅葉を止め、秋という季節もここに止めている
    のであった。

    冬になったが、まだいせきに秋は残っている
    という事を詠んでいます。

 注・・ゐせき=堰。水をせき止める施設。

作者・・藤原公任=ふじわらのきんとう。966~1041。
    正二位権大納言。三船の才と言われて詩歌管弦
    の三方面の才能を兼備していた。和漢朗詠集を
    撰集した。

出典・・後拾遺和歌集・377。
 

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