名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2019年12月

恋せじと 御手洗川に せし禊 神は受けずぞ 
なりにけらしも  
               詠み人知らず
 
(こいせじと みたらしがわに せしみそぎ かみは
 うけずぞ なりにけらしも)

意味・・もう決して恋はすまいと、御手洗川でした禊で
    あったがその願いを神様は受けて下さらなかっ
    たに違いない。

    失恋のつらい思いを、二度と味わいたくないの
    でもう決して恋などはしないようにと、神に願
    いをかけたにもかかわらず、ますます恋しさは
    つのるばかりだ、という気持を詠んでいます。

 注・・御手洗川=神社の傍らを流れ、参詣(さんけい)
     者が身を清める川。
    禊(みそぎ)=神に祈る前に水につかって身を清
     めること。

出典・・古今和歌集・501、伊勢物語。
 


 世の中を 憂しと恥しと 思へども 飛び立ちかねつ 
鳥にしあらねば   
                 山上憶良
            
(よのなかを うしとやさしと おもえども とびたちかねつ
 とりにしあらねば)

意味・・世の中をいやな所、身が細るように耐えがたいような
    所と思っても、捨ててどこかに飛び去ることも出来ま
    せん。私どもは所詮(しょせん)鳥ではないのだから。

    現実社会の苦しみにあえぎながら、それから逃れよう
    もなく、結局それに耐つつ生きざるを得ないことを悟
    った時の窮極の心がとらえられています。

 注・・憂し=つらい、憂鬱だ。
    恥(やさ)し=身が細るように耐えがたい、肩身が狭い。

作者・・山上憶良=やまのうえのおくら。660~733。遣唐使
    として渡唐。筑前守。

出典・・万葉集・893。


 かくしつつ とにもかくにも ながらへて 君が八千代に
あふよしもがな
                    仁和帝
              
(かくしつつ とにもかくにも ながらえて きみが
 やちよに あうよしもがな)

詞書・・仁和の御時、僧正遍照に七十の賀たまひける
    ときの御歌

意味・・今日はこうして宴席を設けてあなたの七十の
    賀をともに祝っているが、自分もこれから何
    とか生きながらえて、さらにあなたの八千代
    の賀宴に会いたいものと思う。

 注・・仁和の御時=光孝天皇の仁和年間(885年)。
    かくしつつ=こうすること。70歳を祝う宴会
     を開いて楽しむこと。
    八千代=八千年。きわめて長い年代。

作者・・仁和帝=にんわのみかど。831~887。光孝
    天皇。

出典・・古今和歌集・347。


なんでもない会話 なんでもない笑顔 なんでもないから
ふるさとが好き
                     俵万智

(なんでもないかいわ なんでもないえがお なんでも
 ないから ふるさとがすき)

意味・・ふるさとに住んでいた頃には気が付かなかった、
    なんでもない会話に聞く方言の暖かさや、なん
    でもない笑顔に見る町の人のやさしさ。なんで
    もないが風のさわやかさや陽ざしのやわらかさ
    を感じる。久しぶりに帰郷してみると、そんな
    自然体の素晴らしさが心に沁みる。だから故郷
    は好きだ。

作者・・俵万智=たわらまち。1962~ 。早稲田大学在学
    中に佐々木幸綱に出会う。歌集「サラダ記念日」。

出典・・「サラダ記念日」。

 


 淋しさに 煙をだにも 絶たじとや 柴折りくぶる
冬の山里         
                 和泉式部

(さびしさに けむりをだにも たたじとや しばおり
 くぶる ふゆのやまざと)

意味・・淋しいあまりに、せめて火(煙)だけでも
    絶やすまいとしてであろうか、小さい雑
    木(ぞうき)を折りくべて暖をとっている
    冬の山里の家の人たちは。

 注・・煙をだにも=せめて煙なりと、せめて火
     なりと。
    柴=山野に生じる小さな雑木。
    くぶる=焼ぶる。火に入れて燃やす。
 
作者・・和泉式部=いずみしきぶ。987~?。

出典・・後拾遺和歌集・390。


 年を経て 世の憂きことの まさるかな 昔はかくも
思はざりしを
                   藤原良基
               
(としをへて よのうきことの まさるかな むかしは
 かくも おもわざりしを)

意味・・年を経るにつけて世の中のつらいことがまさる
    ことだ。昔はこうも思わなかったのだが。

    青年期と壮年期とを比較して力の弱ったこと、
    自分の思い通りにならなくなった辛い気持ちを
    詠んでいます。

 注・・憂き=つらいこと、せつないこと。
               
作者・・藤原良基=ふじわらのよしもと。1320~1388。
    南朝と北朝の対立の時後醍醐天皇の信任を受け
    北朝の摂関職になる。

出典・・歌集「詠百歌」(岩波書店「中世和歌集・室町篇」)


 心こそ 心をはかる 心なれ 心のあたは 
心なりけり         
              詠み人知らず

(こころこそ こころをはかる こころなれ こころの
 あたは こころなりけり)

意味・・ちょっとしたところに表れる人の心遣い
    というものこそ、その人の本心を推し量る
    要点となるものである。人の心をそこなう
    ものはその人自身がもっている心の弱さで
    あるのだ。

 注・・心=思いやり、情け。心臓、中心部。
    はかる=推し量る、判断する。
    心なれ=核心、要点。
    あた=害をなす者、敵。

出典・・古今六帖。


 もののふの 八十宇治川の 網代木に いさよふ波の
 ゆくへ知らずも   
                  柿本人麻呂

(もののうの やそうじがわの あじろぎに いさよう
 なみの ゆくえしらずも)

詞書・・近江の荒れた都を過ぎる時に詠んだ歌。

意味・・宇治川の網代木にしばしとどこおるかに
    見える波、この波は一体どこへ流れ去っ
    てしまうのであろう。

    波の行方に人の世の無常感(物事は生滅変
    転すること)を詠んだ歌です。戦火で荒廃
    した都の行方はどうなるのだろうかの意。

 注・・近江の荒れた都=天智天皇の近江の大津の
     宮の廃墟。壬申(じんしん)の乱(672年)
     の戦火で焼かれ廃墟になった。
    もののふの八十=「宇治」を起す序。「八十
     氏」の枕詞。「もののふは」文武百官。
     多くの氏族に分かれている意。
    網代木=魚を取る網代を設ける場所に並べ打
     った棒杭。
    いさよふ=移動しかねて同じ所にただよう。

作者・・柿本人麻呂=七世紀後半から八世紀初頭の人。
      万葉時代の最大の歌人。
 
出典・・万葉集・264、新古今和歌集・1650。


 おきのいて 身を焼くよりも 悲しきは 都島べの 
別れなりけり
                   小野小町

(おきのいて みをやくよりも かなしきは みやこじま
 べの わかれなりけり)

意味・・炭火がくっついて身体を焼くよりももっと悲しい
    のは、都へ行くあなたと、島辺に残る私との別れ
    でございます。
 
    奥州にいる女が、都に帰る男との別離を悲しんで、
    奥(おき)の井の都島という所で酒を飲ましながら
    詠んだ歌てす。

 注・・おきのいて=「奥の井」という地名に、「熾き(お
     き、赤くおこっている炭火)の居て」を掛ける。
    都島べ=「都島のほとり」の意だか、男は「都」
     に帰り、女は「島」に残る、の意を掛ける。

作者・・小野小町=おののこまち。833頃~876頃。六歌
    仙の一人。美人伝説で有名。
 
出典・・古今和歌集・1104。


 太閤が 一石米を 買いかねて 今日も五斗買い 
明日も五斗買い
               
(たいこうが いっこくまいを かいかねて きょうも
 ごとかい あすもごとかい)

意味・・豊臣秀吉の末期の時代、加藤清正らが朝鮮に
    16万にのぼる朝鮮出兵をした。その結果物資
    は不足し物は高騰した。幕府の財政も逼迫(
    ひっぱく)した。秀吉は金が無いので一度に
    一石の米を買う事が出来ずに、半分ずつ分け
    て買っている。それでもまだ朝鮮出兵を続け
    ている、の意。

 注・・太閤=摂政・太政大臣の尊敬語、豊臣秀吉。
    五斗買い=御渡海(朝鮮出兵のこと)を掛ける。
 

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