名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2020年01月


 此木戸や 錠のさされて 冬の月
                    宝井其角
                 
(このきどや じょうのさされて ふゆのつき)

意味・・夜も更けてほとんど人通りの絶えた刻限である。
    大木戸の門はすでに閉ざされており、空には寒々
    とした冬の月が冴えわたっている。

        門限に間に合わなかった、遠回りして別の道を通
    り帰らねばならないのか。この寒い夜に。残念!

 注・・木戸=城戸・城門で、城や柵に設けた門である
     が、ここでは江戸時代市街地の通路に警備の
     ために設けた門。夜十時以降はこれを閉ざし
     て一般の通行を禁じた。

作者・・宝井其角=たからいきかく。1661~1707。母
    の性、榎本と称していたがのちに宝井と改めた。
    医術・儒学を学ぶ。15歳頃芭蕉に入門。
 
出典・・猿蓑。


 大という 字を百あまり 砂に書き 死ぬことをやめて
帰り来れり
                 石川啄木

(だいという じをひゃくばかり すなにかき しぬことを
 やめて かえりきたれり)

意味・・大という字を百あまりも砂に書いているうちに
    心も慰んで、自殺することをやめて帰って来た。

    大,大・・大空、大海・・大きな山、川、家・・
    大きい・気持ち、態度、振る舞い、器、考え・・
    大きな財産、大きな力・・。

    私は若い。若いということは未来がある。それ
    だけですでに大きな財産だ。大きな力だ。苦労
    や悲しみもあろうが希望もあり楽しみもあるも
    のだ。

作者・・石川啄木=いしかわたくぼく。1886~1912。
      26歳。盛岡尋常中学校中退。与謝野夫妻
    に師事するために上京。

出典・・歌集「一握の砂」。

たらちねの 母が手離れ かくばかり すべなきことは
いまだせなくに
                   詠み人知らず

(たらちねの ははがてはなれ かくばかり すべなき
 ことは いまだせなくに)

意味・・母さんの手を離れ物心ついてからというもの、
    こんなにもせんない思いは、いまだかってした
    ことがありません。

    母を頼り、母に甘え、なにもかも母に相談して
    いた時代はもう過ぎてしまった。今は私は子供
    ではない。色々なことを自分で判断し解決する
    娘時代になったのだ。それにしても、この胸の
    もやもやとせつなさはどうしたのだろう。この
    やるせなさは、母の手を離れて初めて経験する
    気持ちだ。

    この歌には「恋」とか「ものを思う」という言
    葉など、なにも使っていないが「かくばかりす
    べなきこと」が「恋はすべなし・好きな人を思
    ってどうしようもない」ということであり恋の
    歌です。

 注・・たらちねの=「母」の枕詞。
    母が手=母の養育。
    すべなき=途方にくれるさま、どうしようもない。

出典・・万葉集・2368。


 たのめつつ 逢はで年経る 偽りに 懲りぬ心を
人は知らなん
                 藤原仲平
            
(たのめつつ あわでとしふる いつわりに こりぬ
 こころを ひとはしらなん)

意味・・そのうちに逢いましょうと何度も期待をさせて
    逢いもしないで歳月を過ごすという偽りにも、
    懲りずにお慕いする私の心をあなたは知ってい
    ただきたいものです。

 注・・たのめつつ=頼りにさせる、期待させる。

作者・・藤原仲平=ふじわらのなかひら。875~945。
    左大臣。

出典・・後撰和歌集・967。


 是がまあ つひの栖か 雪五尺
                       一茶
                   
(これがまあ ついのすみかか ゆきごしゃく)

意味・・長い漂泊の果てに、ようやく帰り住むこととなった
    故郷である。しかし、いま眼前に見る五尺の雪、こ
    の雪の中で自分のこれからの余生を過ごすのかと思
    うと、芯の底から深いため息がわいてくる。

    文化9年(1812)、一茶50歳の冬、継母・義弟との遺
    産相続問題の解決の為に帰郷した時の作。故郷柏原
    に定住、放浪生活に終止符を打つことになった。

 注・・是がまあ=嘆声を示す。
    つひの栖=最後の落ち着き場所。死に場所。

作者・・一茶=いっさ。1763~1827。長野県柏原の農民の
    子。亡父の遺産を巡る継母・義弟との長い抗争の果
    てに、51歳で故郷に帰住。

出典・・七番日記。

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