名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2020年02月


 降る雪の みのしろ衣 うちきつつ 春きにけりと
おどろかれぬる
                 藤原敏行
             
(ふるゆきの みのしろころも うちきつつ はるきに
 けりと おどろかれぬる)

詞書・・正月一日、一条の后の宮にて、しろきおほうちき
    をたまわりて。

意味・・雪を防ぐ蓑代衣ではないが、雪のような白い衣を
    賜わり、それを何度も肩にかけつつ、暖かい御厚
    情に、我が身にも春が来たことだと、驚いている
    のでございますよ。

    新年を賀する気持と自分にも春が来たと喜ぶ気持
    を詠んでいます。

 注・・みのしろ衣=蓑代衣。蓑の代わりに着る防雨衣。
    「降る雪のみのしろ衣」は「降る雪のような白い
     衣」の意と「経(ふ)る身」を掛ける。
    うちきつつ=「着る」に軽い接頭語をつけた「う
     ち着つつ」と「袿(うちき)」を掛ける。「袿」
     は狩衣の時に着る内着。
    一条の后=在原業平・素性法師・文屋康秀らに歌
     を詠ませている歌壇のパトロン的な存在。
    おほうちき=大袿。公儀などの参加者が賜る袿。
     女性の場合は正装の上に着る上着、男性場合は
     狩衣の下に着る内着。

作者・・藤原敏行=ふじわらのとしゆき。901年没。従四
    位上・蔵人頭。「秋きぬと目にはさやかに見えね
    ども・・」の歌を詠んだ人。

出典・・後撰和歌集・1。


 暁の ゆうつけ鳥ぞ あはれなる ながきねぶりを
思う枕に
                式子内親王
 
(あかつきの ゆうつけとりぞ あわれなる ながき
 ねぶりを おもうまくらに)

意味・・夜明けを告げて人の目を覚まさせる鶏の声が、
    無明長夜を嘆いている我が枕に悲しく聞こえ
    て来る。

    暁の鶏の鳴き声は、心の迷いを覚まさせる為
    に鳴くかの如く聞こえる・・なら良いのだが。

    この歌の時代は、武家と朝廷との対立、朝廷
    内での対立があった。式子内親王は陰謀に連
    座して危うく厳刑に処される所であった。
    また、持病も次第に悪化していた。
    式子内親王は後白河天皇の第三皇女として生
    まれたが物心がつくと斎院として賀茂神社に
    送られた。斎院は神聖なる神に奉仕する巫女
    (みこ)だから処女でなければならない。この
    ため一生を独身で過ごした。

    このような煩悩・悩みの結果出家する事にな
    り、この頃詠んだ歌です。

 注・・ゆふつけ鳥=木綿付鳥、夕告鳥。鶏のこと。
    ながきねぶり=無明(むみょう)長夜。仏教の
     語で明り無く暗い事。煩悩(ぼんのう・欲
     による悩み事)が理性を眩(くら)まし、妄
     念の闇に迷って真理が分らない事。

作者・・式子内親王=しきしないしんのう。1149~
    1201。後白河天皇皇女。賀茂の斎院を勤め
    た。後に出家。

出典・・新古今和歌集・1810。


人知れぬ 大内山の 山守は 木隠れてのみ 
月を見るかな
              源頼政
 
(ひとしれぬ おおうちやまの やまもりは こがくれ
 てのみ つきをみるかな)

意味・・人に知れない大内山の山守である私は、木に
    隠れた状態でばかり月を見ることです。

    大内山の山守,つまり内裏守護番の私はいつも
    物陰からひっそりと帝を拝見するばかりです。

    内裏守護の役にありながら昇殿を許されない
    無念さを、帝を月に、我が身を賎(いや)しい
    山守になぞらえて表現しています。
    「平家物語」はこの歌によって頼政は昇殿を
    許されたという。

 注・・大内山=皇居、宮中。
    山守=山を守る事、山の番をする事。ここで
     は内裏の守護番。
    木隠れて=表立たない状態の比喩。
    昇殿=清涼殿の殿上の間の出入りが許される
     事。

作者・・源頼政=みなもとのよりまさ。1104~1180。
    平氏に叛(そむ)き宇治河合合戦に破れ自害。
    従三位。

出典・・千載集・978。
 


 うき世には よしなき梅の にほひ哉 色にこころを
とめじとおもふに       
                  伏見院

(うきよには よしなきうめの においかな いろに
 こころを とめじとおもうに)

意味・・はかない無常のこの世には不都合な梅の花
    の匂いだなあ。この世にありとあらゆる形
    ある存在には心を留めまいと思うのに、つ
    い梅の匂いに心が乱されてしまう。

 注・・うき世=浮き世、憂き世。中世では「憂き
      世」の意が多い。つらい世の中。
    よしなき=由無き、理由がない、根拠がな
      い。
    色=仏教語の色(しき)の事。形を有し、
      感覚の対象となる生成変化する全ての
      存在。有形の万物。欲望の対象。

作者・・伏見院=ふしみいん。1265~1317。92
    代天皇。「玉葉和歌集」を勅撰。

出典・・金玉和歌集(岩波書店「中世和歌集・鎌倉篇」)


 冬ごもり こらえこらえて 一時に 花咲きみてる
春はくるらし
                 野村望東尼
               
(ふゆぐもり こらえこらえて いっときに はなさき
 みてる はるはくるらし)

意味・・冬の間は引きこもっていて、厳しい寒さをひたすら
    じっとこらえていると、いっきに花が咲き満ちる春
    が来るものだ。人生もこれと同じである。

作者・・野村望東尼=のむらもとに。1806~1867。幕末の
    志士達の活躍を陰で支えた。

出典・・防洲日記。

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