名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2020年06月

刈り残す みつの真菰に 隠ろへて かげもち顔に
鳴くかはづかな        
                 西行
                
(かりのこす みつのまこもに かくろえて かげもち
 かおに なくかわずかな)

意味・・刈り残された御津(地名)の真菰の陰に隠れて
    自分は身を守ってくれる影を待っているぞと
    自慢げな顔で鳴いている蛙だなあ。

    頼りない真菰の陰で鳴く蛙がささやかな物に
    楽しみを感じる無邪気さを滑稽味をもって詠
    んでいます。

 注・・みつ=地名の御津(難波)又は美豆(山城)。
    真菰(まこも)=イネ科の多年草。水辺に生え
     葉、茎で莚(むしろ)を編む。
    かげもち顔=得意顔。「影を待つ」を掛ける。

作者・・西行=1118~1190。鳥羽院の北面の武士。23
     歳で出家。

出典・・山家集・1018。
 


わがやどの 梢の夏に なるときは 生駒の山ぞ 
みえずなりぬる
                 能因法師

(わがやどの こずえのなつに なるときは いこまの
 やまぞ みえずなりぬる)

意味・・私の家の庭の木の梢が夏を迎えた時は、その茂った
    葉にさえぎられて、生駒山は見えなくなっこてしまう
    ものだ。

    若葉の茂るさわやかな夏です。

出典・・後拾遺和歌集・167。


 てのひらを くぼめて待てば 青空の 見えぬ傷より
花こぼれ来る
                  大西民子
 
(てのひらを くぼめてまてば あおぞらの みえぬ
 きずより はなこぼれくる)

意味・・晴れた空は青く心地よい。野辺には花がいっぱい
    咲いて、また散っている。今、この美しい花びら
    を両手で受けようとしている。幸せな時だ。だが、
    花は、空の見えない傷から血や涙がこぼれるよう
    に、手の中にこぼれ落ちてくるのだった。

    幸せそうにに振舞っているが、他人には分からな
    い傷をかばいながら生きている姿を詠んでいます。

 注・・見えぬ傷=他人には分らない傷・悩みを暗示。
    
作者・・大西民子=おおにしたみこ。1924~1994。奈良女
    子高等師範学校卒。木俣修に師事。

出典・・歌集「無数の耳」(実業之日本社「現代秀歌百人一
    首」)

ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば ただ有明の
月ぞ残れる
                   藤原実定

(ほととぎす なきつるかたを ながむれば ただ
 ありあけの つきぞのこれる)

意味・・ほととぎすが鳴いた方を見ると、(繁栄した
    昔の都の姿はなく)ただ有明の月が残ってい
    るだけである。

 注・・有明の月=夜明けの空にまだ残っている月。

作者・・藤原実定=ふじわらのさねさだ。1139~11
    91。正二位左大臣。

出典・・千載和歌集・161、百人一首・81。

 


 板橋や 踏めば沈みて あやめ咲く
                     村上鬼城

(いたばしや ふめばしずみて あやめさく)

意味・・「昔、ある男が我が身は役立たぬと思い込んで、
    もう都にはおるまいと安住の地を求めて旅立った。
    そして三河の国、八橋に着いた。八橋というのは
    川の流れが蜘蛛の手のようにいく筋にも分流して
    いるので、板の橋を八つ渡している。それで八橋
    と呼ぶのであった」という伊勢物語で有名な三河
    に八橋があるが、その板橋を歩いて渡ると、見事
    なあやめが足にもつれるように沢山咲いている。
    在原業平が詠んだ「かきつばた」の折句の歌「か
    ら衣きつつなれにしつましあればはるばる来ぬる
    旅をしぞおもふ」を口ずさみ昔をしのんで、板橋
    を渡っている。

作者・・村上鬼城=むらかみきじょう。1865~1938。耳
    症を患う。裁判所の代書人。

参考です。
唐衣 着つつなれにし 妻しあれば はるばる来ぬる 
旅をしぞ思ふ            
                 在原業平
            
(からころも きつつなれにし つましあれば はるばるきぬる
 たびをしぞおもう)
(か・・・・ き・・・・・・ つ・・・・  は・・・・・・
 た・・・・・)

意味・・くたくたになるほど何度も着て、身体になじんだ衣服
    のように、慣れ親しんだ妻を都において来たので、都を
    遠く離れてやって来たこの旅路のわびしさがしみじみと
    感じられることだ。

    三河の国八橋でかきつばたの花を見て、旅情を詠んだ
    ものです。各句の頭に「かきつばた」の五文字を置い
    た折句です。この歌は「伊勢物語」に出ています。

 注・・唐衣=美しい立派な着物。
    なれ=「着慣れる」と「慣れ親しむ」の掛詞。
    しぞ思う=しみじみと寂しく思う。「し」は強調の意
     の助詞。
    三河の国=愛知県。

作者・・在原業平=ありわらのなりひら。825~880。従四位
     ・美濃権守。行平は異母兄。

出典・・古今集・410、伊勢物語・9段。

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