名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

2021年01月


年月の ゆくつくごとし 鉄橋を 渡れば枯野
すぐ無人駅
                小中英之

(としつきの ゆくつくごとし てっきょうを わたれば
 かれの すぐむじんえき)

意味・・鉄橋を渡れば一段と枯野が広がり、着いた所は
    駅員もいない無人駅である。枯野といい、無人
    駅といい、人の年老いた姿を象徴しているかの
    ように思われる。

    都会人として、枯野という情景をめったに見る
    事はない。郊外へ郊外へと運ばれて行く時、鉄
    橋を渡る時の音の心地よさ。そして枯野が広が
    る。この枯野を見ると、寂しさもあるが、都会
    人としての安らぎ、そして郷愁がそそがれる。
    駅員のいない無人駅は寂しくもあり侘びしいも
    のであるが、地元の人々にとっては無くてはな
    らないありがたい存在でもある。
    年老いて第一線では役立たなくなっても、人々
    に安らぎを与え、やはり居てくれてありがたい
    と思われる存在になりたい。

作者・・小中英之=こなかひでゆき。1937~2001。北
    海道江差高校卒。詩人。

出典・・馬場あき子著「歌の彩事記」。       


あらましの 心のうちの たむけ草 まつとしるや 
住吉の神
                 藤原為相

(あらましの こころのうちの たむけぐさ まつと
 しるや すみよしのかみ)

意味・・前々からの望みを心の中で祈っておりましたが、
    それをかなえてくださることを待っているとご存
    知でしょうか、住吉の神様は。

 注・・あらまし=計画、予期、期待。
    たむけ草=手向け草。神に供える品。「手向け
     る」を掛ける。
    まつ=「松」と「待つ」を掛ける。松と住吉は
     深い縁のある語。

作者・・藤原為相=ふじわらのためすけ。1263~1328。
    正二位権中納言。

出典・・新拾遺和歌集。


灯ちらちら 疱瘡小屋の 吹雪かな    
                           一茶

(ひちらちら ほうそうごやの ふぶきかな)

意味・・降りしきる吹雪の中で、病舎の灯がちらちら
     とまたたいている。

     長崎郊外に設けられた大村藩の人里離れた
     隔離病舎を詠んだ句です。
     病舎といっても人に忌(い)まれる天然痘患者
     を収容した粗末な小屋なのです。

     人に忌み嫌われる病気、治るのかどうか不安
     の中、そして寒さに寂しさ。この逆境の中で
     必死になって生きている患者を念頭に詠んだ
     句です。

 注・・疱瘡(ほうそう)=天然痘のこと。法定伝染病
     の一つで、高熱・発疹(ほっしん)を生じあば
             たを残す。

出典・・寛政句帖(小学館「近世俳句俳文集」)


思へども ひとのこころの あさぢふに おきまよふ霜の
あへず消ぬべし
                   藤原家隆

(おもえども ひとのこころの あさじうに おきまよう
 しもの あえずけぬべし)

意味・・どんなに愛してもあなたの心は浅い。寂しい枯草
    の原に降りた霜が消えるように、私は耐えきれず
    に死んでしまうのでしょう。

    恋とはどちらか一方が深く愛してしまうもの。そ
    の不足に苦しむうちに、よけい相手を追い詰めて
    しまう。そうなると相手はさらに心が離れてしま
    う。
    かっては確かにあったはずの愛の空間が、今は一
    面の荒れ果てた浅茅が原となり、枯れた草に霜が
    降りて目を覆(おお)いたくなる無惨な景色と化し
    ています。これはまさしく私の心の風景。その霜
    もはかなく消えて行くばかり。私の命もそれと共
    に消えてしまうのは時間の問題なのか・・。

 注・・思へども=恋慕っても、愛しても。
    あさぢふ=浅茅生。丈の低い茅の生えている所。
    「心の浅い」が掛かる。
    おきまよふ=置き場所に迷う。霜などがひどく
     降りる。
    あへず=敢えず。たえきれない、こらえきれない。
    消ぬ=形がなくなる、死ぬ。

作者・・藤原家隆=ふじわらのいえたか。1158~1237。
    従二位宮内卿。新古今和歌集の撰者の一人。

出典・・壬二(みに)集(林和清著「日本の悲しい歌」)


冬野には こがらやまがら とび散りて またいろいろの
草の原かな
                   藤原信実 

(ふゆのには こがらやまがら とびちりて またいろ
 いろの くさのはらかな)

意味・・冬の野には小雀・山雀が飛び舞っている。秋の
    草花が枯れてしまった野原は、以前のようにま
              た、さまざまに人の関心を引く平地になるのだ
    ろうか。

    春や秋は草花がいろいろに咲き、人々はこの野
    に目を向けていたが、花の無くなった今は誰も
    見向きもしない。だが再びこの野に目が向けら
    れるようになるだろうなあ、と感慨を詠んでい
    ます。

 注・・こがらやまがら=小雀・山雀。スズメ目シジュウ
     ガラ科の小鳥。
    草の原=「草」は種(くさ)、「原」は平地。種は
     物ごとを生ずる元。冬の野は、春になるといろ
     いろの物が生じる平地だと言っている。

作者・・藤原信実=ふじわらののぶざね。1176~1266。
     正四位下・左京大夫。

出典・・新撰和歌六帖。


淡雪の ほどろほどろに 降り敷けば 平城の京し 

思ほゆるかも

                  大伴旅人

(あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならの
 みやこし 
 おもおゆるかも)

意味・・淡雪がはらはらと降り積もると
あの奈良の都が
    懐かしく思い出されてならない。

    大宰府に居た時の作です。大宰府は都に比べ
れば
    雪が珍しく、それだけに、雪を見るとすぐさま都
    に思いをはせたものです。

 注・・ほどろほどろ=はらはらと、まだらに。
    平城の京し(ならのみやこし)=奈良の都が。「
し」
    は強調する語。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。太宰帥
    として九州に下向、その後大納言となり帰京。

出典・・万葉集・1639。


雪散るや おどけもいへぬ 信濃空
                     一茶

(ゆきちるや おどけもいえぬ しなのそら)

意味・・雪がちらちらと降って来た。江戸あたりだと
    雪を見て冗談の一つも言えるのだが、信濃の
    空ではそれどころではない。やがて大変な雪
    になるのだ。

    雪国の大雪の恐ろしさを捉(とら)えています。

 注・・雪散る=雪が降る事をいう。
    信濃=長野県。

作者・・一茶=小林一茶。1763~1827。信濃(長野)の
    柏原の農民の子。3歳で生母に死別。継母
    と不和のため、15歳で江戸に出る。亡父
    の遺産をめぐる継母と義弟の抗争が長く
    続き51歳の時に解決し、52歳で結婚した。

出典・・おらが春。


越の浦の 沖つ波間を なづみつつ 摘みにし海苔は
いつも忘れじ
                 良寛

(こしのうらの おきつなみまを なずみつつ つみにし
 のりは いつもわすれじ)

意味・・越後の海岸の、沖の波間で悩み苦しみながら
    摘んでくれた海苔のうまさは、いつも忘れる
    ことはない。

 注・・なづみ=悩み苦しむ。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。越後出雲崎
     に神官の子として生まれる。18歳で曹洞宗光
     照寺に入山。

出典・・谷川俊朗著「良寛全歌集」。

 
時雨るるや 黒木つむ屋の 窓あかり
                    野沢凡兆

(しぐるるや くろきつむやの まどあかり)

意味・・寒中の用意に軒近くまで薪(たきぎ)を高々と
    積み上げた農家などのさまである。外は時雨
    が降っていて、室内は寒々と薄暗い。積み上
    げた黒木の間に小窓の部分だけは開けてあり、
    そこから射し込む光が薄暗い室内をほのかに
    明るくしている。

    冬を迎えて、ひっそり寄り添うような人間の
    生業(なりわい)のさまを感じさせる句です。

 注・・黒木=生木をいぶして黒くなった薪。

作者・・野沢凡兆=のざわぼんちょう。?~1714。
    金沢より京に出て医を業とする。芭蕉に師事。
    去来とともに「猿蓑」を編集。

出典・・句集「猿蓑」。


一月の川一月の谷の中
               飯田隆太

(いちがつの かわいちがつの たにのなか)

意味・・一月の川が一月の谷の中を流れている・・。

    厳冬の谷を一心に流れる川。自然の厳しさを
    あるがままを受け入れ、それを貫くことの潔
    (いさぎよ)さとひたむきさを詠んでいます。

 注・・一月=一年で最初の月。寒さの厳しい月で、
    「正月」や「睦月」とはニュウアンスが違う。
    潔さ=思い切りがよい。
    ひたむきさ=いちずに熱中すること。

作者・・飯田隆太=いいだりゅうた。1920~2007。
    飯田蛇笏の四男。

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