**************** 名歌鑑賞 ***************

はるばると 薬をもちて 来しわれを 見守りたまへり
われは子なれば      
                  斉藤茂吉
(はるばると くすりをもちて こしわれを みまもり
 たまえり われはこなれば)

意味・・はるばると薬をもって駆けつけて来た私を、
    病床の母はただじっと眺めるばかりであった。
    その子であるこの私を。

    「死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ
    天に聞ゆる」などの連作の一首。その事により
    この歌の主語は母となります。医師である茂吉
    は言語障害の危篤の母の見舞いに駆けつけた
    歌です。

    病人の母は、「大丈夫?」と言って薬を持って
    来てくれたのも嬉しいことでしょうが、子供の
    元気な姿を見るのが嬉しく、安心してじっと我
    が子を見守っています。

 注・・薬をもちて=当時茂吉は32歳で東大医科の助手
     であり、付属病院の医師であった。そういう
     事情が含まれている。
    見守り=単に見るの意でなく、じっと見つめる
     事。
    われは子なれば=「見守りたまへり」に続く倒
     置句法。

作者・・斉藤茂吉=さいとうもきち。1882~1953。
    東大医科を卒業。「アララギ」を編集。
出典・・学灯社「現代短歌評釈」。