行く水は 堰けばとまるを 紅葉ばの 過ぎし月日の
また返へるとは         
                  良寛

(ゆくみずは せけばとまるを もみじばの すぎし
 つきひの またかえるとは)

意味・・流れる水は堰き止めれば止まるのに、過ぎて
    しまった月日が再び戻ってくるとは聞いた事
    がないなあ。

    堰で秋を留めると詠んだ歌として、
    「落ちつもる紅葉を見れば大井川いせきに秋
    もとまるなりけり」があります。
              (意味は下記参照)

    うかうかしていると、生き生きとした盛んな
    年頃は過ぎ去って行く。二度と同じ月日はも
    う戻って来ない。

 注・・紅葉ばの=「過ぎ」の枕詞。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。

出典・・谷川敏朗著「良寛全歌集」。

参考歌です。
落ちつもる 紅葉を見れば 大井川 ゐせきに秋も
とまるなりけり    
                 藤原公任
意味・・大井川の堰(いせき)に散り落ちて積もっている
    紅葉をみると、堰は水をせき止めるだけでなく
    紅葉を止め、秋という季節もここに止めている
    のであった。

    冬になったが、まだいせきに秋は残っている
    という事を詠んでいます。

 注・・ゐせき=堰。水をせき止める施設。

作者・・藤原公任=ふじわらのきんとう。966~1041。
    正二位権大納言。三船の才と言われて詩歌管弦
    の三方面の才能を兼備していた。和漢朗詠集を
    撰集した。

出典・・後拾遺和歌集・377。