忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の
惜しくもあるかな       
                 右近

(わすらるる みをばおもわず ちかいてし 
 ひとの いのちの おしくもあるかな)

意味・・あなたに忘れられる私の身を、少しも私は
    辛(つら)いとは思いません。ただ、私への
    愛を神に誓ったあなたの命が、神罰を受け
    て縮まるのではないかと、惜しまれるので
    す。

    当時は神仏に対する信仰が強く、神に誓っ
    た愛を破ると神罰が下って命を失うに違い
    ないと信じられていた。
    相手の男に捨てられながらも、なおその男
    の身を案じるという、愛を捨てることの出
    来ない悲しみが詠まれた歌です。

 注・・忘らるる=恋をしている相手の男性に忘れ
     られる。
    誓ひてし=いつまでも心変わりせずに愛す
     ると、神かけて約束した。
    惜しく=失うのにしのびない。男が神罰を
     こうむって命を落とすことを心配する。

作者・・右近=うこん。生没未詳。十世紀前半の女
    性歌人。

出典・・拾遺和歌集・870、百人一首・38。