世の中に おもひやれども 子を恋ふる おもひにまさる
おもひなきかな         
                   紀貫之

(よのなかに おもいやれども こをこうる おもいに
 まさる おもいなきかな)

意味・・世の中にある色々の悲しみや嘆きをあれこれ
    と思いめぐらして見るが、亡き子を恋い慕う
    嘆きにまさる嘆きはないものだなあ。

    土佐から帰国途中の四国の羽根という所で無
    邪気な子供を見ていると、任地で亡くした子
    供が悲しく思い出され、詠んだ歌です。

     参考歌です。
    北へゆく 雁ぞ鳴くなる 連れてこし 数は
    たらでぞ かへるべらなる(意味は下記参照)

作者・・ 紀貫之=きのつらゆき。868~945。土佐守。
    古今和歌集の撰者。仮名序を執筆。

出典・・土佐日記。

参考歌です。
北へ行く 雁ぞ鳴くなる つれてこし 数はたらでぞ 
帰るべらなる
                  詠人しらず
                      
(きたへゆく かりぞなくなる つれてこし かずは
 たらでぞ かえるべらなる)

意味・・春が来て北国に飛び帰る雁の鳴き声が聞こえて
    くる。あのかなしそうな鳴き声は、日本に来る
    時には一緒に来たものが、数が足りなくなって
    帰るからなのだろうか。

    この歌の左注に、「この歌の由来は、ある人が
    夫婦ともどもよその土地に行った時、男の方が
    到着してすぐに死んでしまったので、女の人が
    一人で帰ることになり、その帰路で雁の鳴き声
    を聞いて詠んだものだ」と書かれています。

 注・・べらなり=・・のようである。

出典・・ 古今和歌集・412。