忘るるやと 物語りして 心遣り 過ぐせど過ぎず
なほ恋にけり
                詠み人知らず

(わするるやと ものがたりして こころやり すぐせど
 すぎず なおこいにけり)

意味・・忘れることもあろうかと、人と世間話などをして
    気を紛らわせて、物思いを消してしまおとしたが、
    一層恋心は募(つの)るばかりである。

    自分一人でじっとしているよりも、人と話してい
    るうちに気が紛れて来ることもあるから、世間話
    をしてやり過ごそうと思ったが、そうやって見て
    も、やはりあの人が恋しい。

    何か別の事に打ち込んでいる間に忘れてしまうと
    いう恋は本当の恋ではないのかも知れない。

 注・・忘るるやと=(恋の苦しみを)忘れる事が出来るか
     なあと。
    物語り=世間話をすること。
    心遣(や)り=心をそちらの方に向ける。

出典・・万葉集・2333。