(1)わが宿の 軒の菖蒲を 八重葺かば 浮世のさがを  
  けだしよきむかも       
                   由之
  
(わがやどの のきのしょうぶを やえふかば うきよの
 さがを けだしよきんかも)

(2)八重葺かば またも閑をや 求めもせむ 御濯川へ    
    持ちて捨てませ        
                                                良寛

(やえふかば またもひまをや とめもせん みすすぎ
 がわへ もちてすてませ) 

意味(1)・・私の家の軒に魔よけの菖蒲をさしているが、
      これを幾重にもさしたなら、この世の邪気
      を、もしかしたら払いのける事が出来るだ
      ろうか。
意味(2)・・あなたの軒の菖蒲を幾重にもさして悪い者
             を払ったらまた楽しみを求めようとするだ
             ろう。邪気を払う菖蒲がかえってあなたの
             ためにならないから、神を拝むために身を
             清める川へ持って行ってお捨てなさい。

     「暇ほど毒はない」という事をいっています。

 注(1)・・さが =悪いもの、邪気。
      けだし=もしかしたら。
      よきむ=避ける。
       菖蒲=魔除けとして軒に吊るしたり刺され
               たりしていた。
 注(2)・・閑(ひま)=暇つぶし、道楽。
      求(と)め=求める。
      御濯(みすすぎ)川=御手洗(みたらし)川、
               身を清める川。

作者(1)・・由之=よしゆき。良寛の弟。
作者(2)・・良寛=りょうかん。1758~1831。越後出雲
           崎に神官の子として生まれる。18歳で曹洞
           宗光照寺に入山。

出典・・谷川俊朗著「良寛全歌集」。