夏はよし 暑からぬほどの 夏はよし 呼吸管など
忘れて眠らむ
                  明石海人

(なつはよし あつからぬほどの なつはよし こきゅう
 かんなど わすれてねむらん)

意味・・私の癩病も末期に達して、今は気官切開して呼吸管を
    差し込んだ日常生活を送っている。その苦痛は一時
    すら忘れられるものではないが、暑からぬ夏の気候
    は呼吸管が痰の乾きによって塞がる不快さは少なく
    なる。せめてこんな時こそ不自由な己が身を忘れて
    ゆっくりと眠りたいものだ。

    呼吸管の詰まりの苦しみを詠んだ歌があります。
    「霜の夜は痰の乾からびに呼吸管の塞がること屡々
    なり」の詞書で「呼吸管の乾きを護る雪の夜は見え
    ぬ眼を闇に瞠(みは)りつつ」

    末期の癩患者は、自分の足で歩き、目が見え、鼻で
    呼吸し、耳で聞くこと、話すこと、筆記すること等
    全て失われ苦痛と絶望の中で、安らかな眠りは何よ
    りの安楽です。

作者・・明石海人=あかしかいじん。1901~1939。
    昭和3年ハンセン病と診断され岡山県の長島
    愛生園で療養生活を送る。盲目になり喉に吸
     気官を付けながらの闘病の中、歌集「白描」
      を出版。

出典・・白描以後(桜楓社「現代名歌鑑賞事典」)