医師の眼の 穏しきを趁ふ 窓の空 消え光つつ 
花の散り交ふ
                 明石海人

(いしのめの おだしきをおう まどのそら きえ
 ひかりつつ はなのちりかう)

詞書・・病名を癩と聞きつつ暫しは己が上とも覚えず。

意味・・診察した医師は「癩」と診断して、顔をそっ
    と窓の空に向けている。そこには花びらが、
    日に当たり、またかげりながら散っている。

    昭和10年頃の当時は、癩病は不治の病であっ
    た。その病名を聞かされてショックを受けた
    状態を詠んでいます。

    咲き終えて落下する花びらのように、自分の
    運命もこれまでかと落胆した歌です。
    しかし、この後に気を取り戻します。父や母、
    妻や幼子の事を思うと、必ず病気を治さねば
    ならない、治したいと。
    蕾が花と開いて、燃えて燃え尽きて落下する。
    私も必ずこの病気に打ち勝って花を開かせて
    燃え尽きて散りたいと。   

 注・・穏(おだ)しき=おだやか。
    趁(お)ふ=追う、追いかける。
    癩=ハンセン氏病。昭和24年頃から特効薬が
     普及して完治するようになった。特効薬の
     無い昔は、人々に忌み嫌われ差別され、又
     療養所に隔離されて出所出来なかった。

作者・・明石海人=あかしかいじん。1901~1939。
    沼津商業卒。会社勤め後、らい病を患い、長
    島愛生園で生涯を過ごす。鼻が変形し失明す
    る中で歌集「白描」を出版。

出典・・歌集「白描」、新万葉集。