僧朝顔 幾死にかへる 法の松
                    芭蕉

(そうあさがお いくしにかえる のりのまつ)

詞書・・奈良の当麻寺に参詣すると、庭に植えられている松は
    およそ千年もたっているように見える。大きさは、荘
    子がいう「牛を隠す」というほどの大きさである。寺
    の庭に植えられた松という仏縁で、斧で切り倒される
    ことがなかったのは幸運なことである。

意味・・この寺の僧も朝顔も、今まで幾代となく死に代ったこ
    とだろう。それなのに、この松は寺の庭に植えられて
    いたという仏縁で千年の長寿を保ったのはまことに尊
    いものだ。

    荘子のいう「牛を隠す」は「櫟社(れきしゃ)の樹を見
    る。その大きさ牛を隠す」ということで、櫟(くぬぎ)
    の木は材木にならず役に立たないので人間に伐られな
    い。それで牛を隠すほどの大きな木になり寿命を全う
    することが出来る、という意味です。

    この櫟や老松のように、天から頂いた寿命を病気など
    せずに全うしたいものです。

 注・・法の松=寺の庭に生えているという仏縁の松。そのた
    め千年の老松になるまで寿命が全う出来た。

作者・・芭蕉=ばしょう。1644~1694。

出典・・野ざらし紀行。