奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ
秋は悲しき
                猿丸太夫

(おくやまに もみじふみわけ なくしかの こえきく
 ときぞ あきはかなしき)

意味・・深い山の奥にいて、紅葉の吹き散っている山路を
    歩いていると、鹿の鳴く声が聞こえてくる。秋の
    悲しさがひとしお身にしみるのは、こんな時なの
    だ。

    秋は収穫の時節なので喜ぶべき季節なのだが、古
    今集以降の歌では悲哀の季節として詠まれている。
    それは、秋を生命が衰え滅びる時節ととらえ、そ
    れに自らの人生の時間を重ね、人間存在のはかな
    さを意識する時「秋は悲し」の季節感覚が生まれ
    てくるのであろう。

 注・・鳴く鹿の=秋に雄鹿は雌鹿を求めて鳴くとされ、
     そこに遠く離れた妻や恋人を恋慕する心情を重
     ねている。
    声聞く時ぞ=秋を悲しく感じる時は他にも色々あ
     るけれど、鹿の声を聞くその時がとりわけ。
    秋は=「は」は他と区別してとりたてていうのに
     用いる。他の季節はともかく秋は。

作者・・猿丸太夫=さるまるだゆう。伝説的歌人。

出典・・古今和歌集・215、百人一首・5。