秋をへて 昔は遠き 大空に 我が身ひとつの
もとの月影
              藤原定家
          
(あきをへて むかしはとおき おおぞらに わがみ
 ひとつの もとのつきかげ)

意味・・幾多の秋を経て、昔は遠い彼方にある。大空には
    昔を思い出させる変わらぬ月の光、そして我が身
    ばかりはもとのままである。

    昔から、出世しようと頑張って来たのだがそれで
    もうだつが上がらない、私だけがもとのままだ。

    本歌は在原業平の次の歌です。

   「月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身ひとつは
    もとの身にして」

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~1241。
    平安末期から鎌倉初期を生きた歌人。

出典・・定家卿百番自歌合(岩波書店「中世和歌集・鎌倉
    篇」)


本歌です。

月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ わが身ひとつは 
もとの身にして      
                在原業平
           
意味・・この月は以前と同じ月ではないのか。春は去年
    の春と同じではないのか。私一人だけが昔のま
    まであって、月や春やすべてのことが以前と違
    うように感じられることだ。

    しばらく振りに恋人の家に行ってみたところ、
    すっかり変わった周囲の光景(すでに結婚して
    いる様子)に接して落胆して詠んだ歌です。

作者・・在原業平=ありわらなりひら。825~880。美
    濃権守・従四位。「伊勢物語」が有名。

出典・・古今和歌集・747。