おりたちて 今朝の寒さを 驚きぬ 露しとしとと
柿の落葉深く
伊藤左千夫
(おりたちて けさのさむさを おどろきぬ つゆ
しとしとと かきのおちばふかく)
意味・・朝、庭に降りみて、思いがけない寒さに驚い
た。いつのまにか晩秋、初冬の姿に一変した
庭には柿の落葉が深く散りしき、冷え冷えと
した朝露にしっとりと濡れている。
きびしい初冬の自然の姿、万物凋落の姿の寂
寥(せきりょう)感を詠んでいます。
これからいっそう厳しい冬が来て草木を枯れ
つくす。寒さがこたえるようになった自分の
身体にも、枯葉と同じように衰えを意識させ
られ、寂しさが湧いて来る・・。
これからやって来る寒さに耐えなくては・・。
大正元年、亡くなる前年に詠んだ歌です。
注・・寒さを=「寒さに」と違って、より主情的に
意外な寒さと捉えている。
露しとしとと=朝露にしっとりと濡れて。「
濡れて」を補う。
柿の落葉深く=柿の落ち葉が重なって散り敷
いているさま。「深し」とせず「深く」に
して余韻を持たせ、秋から冬にかけての自
然の凋落の寂しさを暗示している。
作者・・伊藤左千夫=いとうさちお。1864~1913(大
正2年)。牛乳搾取業。正岡子規に入門。小説
「野菊の墓」が有名。
出典・・歌集「ほろびの光」(東京堂出版「現代短歌鑑
賞事典」)。
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