裏戸出て 見るものもなし 寒々と 曇る日傾く
枯芦の上に
                 伊藤佐千夫

(うらどでて みるものもなし さむざむと くもるひ
 かたむく かれあしのうえに)

意味・・裏戸を開けて外に出て見ると、群がり生える
    枯れ芦ばかりで何も見る物がない。空はどん
    より曇り、日も傾いて寒々とした冬の夕暮れ
    の風景である。

    次の定家の歌と比べると、荒涼とした情景が
    沈鬱と寂しさの伝わる歌です。
    前年の水害による経済的打撃や作歌上で対立
    した寂しさなのかも知れません。

    定家の歌です。
    「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の
     秋の夕暮れ」  (意味は下記参照)
    
作者・・伊藤佐千夫=いとうさちお。1864~1913。
    明治法律学校中退。牛乳搾取業経営。

出典・・増訂 佐千夫歌集(東京堂出版「現代短歌鑑賞
    事典」)

参考です。

見渡せば 花も紅葉も なかりけり 浦の苫屋の
秋の夕暮れ
                 藤原定家
           
意味・・見渡すと、色美しい春の花や秋の紅葉もない
    ことだなあ。この海辺の苫葺き小屋のあたり
    の秋の夕暮れは。

    春・秋の花や紅葉の華やかさも素晴らしいが、
    寂しさを感じさせるこの景色もまた良いもの
    だ。

 注・・浦=海辺の入江。
    苫屋(とまや)=菅(すげ)や茅(かや)で編んだ、
     むしろで葺(ふ)いた小屋。漁師の仮小屋。

作者・・藤原定家=ふじわらのさだいえ。1162~12
    41。新古今集の撰者。

出典・・新古今和歌集・363。