鶴岡の 霜の朝けに 打つ神鼓 あな鞳々と
肝にひびかふ
               吉野秀雄

(つるおかの しものあさけに うつじんこ あな
 とうとうと きもにひびかう)

詞書・・乙酉年頭吟(きのとりねんとうぎん)

意味・・霜の降りた朝明け時に、鶴岡八幡宮の神事に
    用いる太鼓を打つ音がどどどん、どどどんと
    肝を揺り動かように鳴り響いて来る。

    神社から響いて来るどどどん、どどどんとい
    う太鼓の音を聞いていると、厳粛な気分にな
    り正月の新鮮さをいっそう引き立ててくれる。

 注・・乙酉年頭吟=昭和二十年正月に詠んだ歌。
    朝け=朝明け、明け方。
    あな=ああ。痛切な感動から発した叫び声。
    鞳々(とうとう)=太鼓の音を模した語。単に
     どどどんと描写するのと異なり、神事の荘
     重な響きを表す。

作者・・吉野秀雄=よしのひでお。1902~1967。慶応
     義塾を病気中退。会津八一に師事。

出典・・歌集「寒蝉集」