あさみどり かひある春に あひぬれば 霞ならねど
立ちのぼりけり
                   しろ女 

(あさみどり かいあるはるに あいぬれば かすみ
 ならねど たちのぼりけり)

意味・・浅緑色に草木も萌える春。この生き甲斐のある
    春に折よくめぐり合いましたので、霞ではあり
    ませんがまるで心も空に立ちのぼるばかりです。

    地名の「鳥飼」を詠み込んだ歌です。地名を詠
    み込んだだけでなく、「生き甲斐のある」処遇
    に感謝の心を詠み込んでいます。
    
    「とりかひ」は「あさみどり かひある春に」
    に詠みこまれています。

    大和物語146段にある歌で、あらすじは下記参照。

 注・・鳥飼=大阪摂津市にある地名。

作者・・しろ女=しろめ。大和物語に出て来る遊女。
     従四位丹波守大江玉渕(たまぶち)の息女。

出典・・大和物語・146段。

大和物語146段のあらすじです。

    「ある日、宇多院は出遊して鳥飼の離宮に赴き、
    ここに遊女を召して遊宴を張った。中でも声の
    よい歌い手であるしろ女は気品高い容貌をもっ
    た由緒ありげな遊女であった。目を留めて人に
    尋ねると、何とこれが従四位丹波守玉渕(たま
    ぶち)の息女のなれの果てである事が分った。
    大江玉渕といえば都でも名ある学問の家である。
    院はしろ女の転落にいたく同情しつつ、試みる
    ように、「とりかひ」の地名を詠みこんだ歌を
    求めてみた。
    上記の歌が、この時のしろ女の即詠の歌である。
    しろ女はこの一首を媒介として、宇多院の保護
    を受け、幸運な生活が出来る事になった。」