菫咲く 春は夢殿 日おもてを 石段の目に
乾く埴土 
                北原白秋

(すみれさく はるはゆめどの ひおもてを いしきだ
 のめに かわくはにつち)

意味・・菫の花咲く春の夢殿。その八角堂を登る石段の
    石の継ぎ目に、白く乾いた土。そこにも春の日
    はさして、菫の花はひっそりと咲いている。春
    の美しさ、春の哀しみをここに取り集めたよう
    に・・・。

    人に踏まれる石段、しかも水分が十分ではない
    所に芽を出し花を咲かせている菫。環境の悪さ
    に菫は哀しいだろうが、不平も言わずに美しい
    花を咲かせている。こんな環境にいても幸せに
    生きている。どんな人生をもイエスと肯定して
    生きている。

 注・・夢殿=法隆寺夢殿。738年建立。八角形の伽藍。
    日おもて=日面、日表。日の当たる側、日向。
    石段(いしきだ)の目=石段の継ぎ目。
    埴土(はにつち)=粘土分を50%以上含む土。排
     水や通気性が悪く耕作に適しない。

作者・・北原白秋=きたはらはくしゅう。1885~1942。
    詩人。

出典・・歌集「夢殿」(清川妙著「つらい時、いつも古典
    に救われた」)