名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

カテゴリ:日記 > 和歌・短歌・俳句


冬野には こがらやまがら とび散りて またいろいろの
草の原かな
                   藤原信実 

(ふゆのには こがらやまがら とびちりて またいろ
 いろの くさのはらかな)

意味・・冬の野には小雀・山雀が飛び舞っている。秋の
    草花が枯れてしまった野原は、以前のようにま
              た、さまざまに人の関心を引く平地になるのだ
    ろうか。

    春や秋は草花がいろいろに咲き、人々はこの野
    に目を向けていたが、花の無くなった今は誰も
    見向きもしない。だが再びこの野に目が向けら
    れるようになるだろうなあ、と感慨を詠んでい
    ます。

 注・・こがらやまがら=小雀・山雀。スズメ目シジュウ
     ガラ科の小鳥。
    草の原=「草」は種(くさ)、「原」は平地。種は
     物ごとを生ずる元。冬の野は、春になるといろ
     いろの物が生じる平地だと言っている。

作者・・藤原信実=ふじわらののぶざね。1176~1266。
     正四位下・左京大夫。

出典・・新撰和歌六帖。


淡雪の ほどろほどろに 降り敷けば 平城の京し 

思ほゆるかも

                  大伴旅人

(あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならの
 みやこし 
 おもおゆるかも)

意味・・淡雪がはらはらと降り積もると
あの奈良の都が
    懐かしく思い出されてならない。

    大宰府に居た時の作です。大宰府は都に比べ
れば
    雪が珍しく、それだけに、雪を見るとすぐさま都
    に思いをはせたものです。

 注・・ほどろほどろ=はらはらと、まだらに。
    平城の京し(ならのみやこし)=奈良の都が。「
し」
    は強調する語。

作者・・大伴旅人=おおとものたびと。665~731。太宰帥
    として九州に下向、その後大納言となり帰京。

出典・・万葉集・1639。


雪散るや おどけもいへぬ 信濃空
                     一茶

(ゆきちるや おどけもいえぬ しなのそら)

意味・・雪がちらちらと降って来た。江戸あたりだと
    雪を見て冗談の一つも言えるのだが、信濃の
    空ではそれどころではない。やがて大変な雪
    になるのだ。

    雪国の大雪の恐ろしさを捉(とら)えています。

 注・・雪散る=雪が降る事をいう。
    信濃=長野県。

作者・・一茶=小林一茶。1763~1827。信濃(長野)の
    柏原の農民の子。3歳で生母に死別。継母
    と不和のため、15歳で江戸に出る。亡父
    の遺産をめぐる継母と義弟の抗争が長く
    続き51歳の時に解決し、52歳で結婚した。

出典・・おらが春。


越の浦の 沖つ波間を なづみつつ 摘みにし海苔は
いつも忘れじ
                 良寛

(こしのうらの おきつなみまを なずみつつ つみにし
 のりは いつもわすれじ)

意味・・越後の海岸の、沖の波間で悩み苦しみながら
    摘んでくれた海苔のうまさは、いつも忘れる
    ことはない。

 注・・なづみ=悩み苦しむ。

作者・・良寛=りょうかん。1758~1831。越後出雲崎
     に神官の子として生まれる。18歳で曹洞宗光
     照寺に入山。

出典・・谷川俊朗著「良寛全歌集」。

 
時雨るるや 黒木つむ屋の 窓あかり
                    野沢凡兆

(しぐるるや くろきつむやの まどあかり)

意味・・寒中の用意に軒近くまで薪(たきぎ)を高々と
    積み上げた農家などのさまである。外は時雨
    が降っていて、室内は寒々と薄暗い。積み上
    げた黒木の間に小窓の部分だけは開けてあり、
    そこから射し込む光が薄暗い室内をほのかに
    明るくしている。

    冬を迎えて、ひっそり寄り添うような人間の
    生業(なりわい)のさまを感じさせる句です。

 注・・黒木=生木をいぶして黒くなった薪。

作者・・野沢凡兆=のざわぼんちょう。?~1714。
    金沢より京に出て医を業とする。芭蕉に師事。
    去来とともに「猿蓑」を編集。

出典・・句集「猿蓑」。


一月の川一月の谷の中
               飯田隆太

(いちがつの かわいちがつの たにのなか)

意味・・一月の川が一月の谷の中を流れている・・。

    厳冬の谷を一心に流れる川。自然の厳しさを
    あるがままを受け入れ、それを貫くことの潔
    (いさぎよ)さとひたむきさを詠んでいます。

 注・・一月=一年で最初の月。寒さの厳しい月で、
    「正月」や「睦月」とはニュウアンスが違う。
    潔さ=思い切りがよい。
    ひたむきさ=いちずに熱中すること。

作者・・飯田隆太=いいだりゅうた。1920~2007。
    飯田蛇笏の四男。


曇りなき 子の日の影に うち出づる 野辺に心も
揺らく空かな
                  荒木田守武

(くもりなき ねのひのかげに うちいずる のべに
 こころも ゆらくそらかな)

意味・・曇りなく陽の射す初子(はつね)の日、野辺に
    出て見ると心もゆったりとし、命も延びるよ
    うな気のする空が広がっているとだ。
  
    気持ちの良い初春の野に出た浮き浮きとした
    気分であり現代のピクニック気分が詠まれて
    います。

 注・・子の日=正月の初子の日。ね「子」は十二支
     の一番目で鼠。その日に不老長寿を願って
     野に出て小松を引き、若菜を摘む行事が行
     われる。
    子の日の影=子の日に射す日光。
    曇りなき=晴れ渡っている事と、御代(天皇
     のご治世)が正しく行われている事を暗示。
    うち出づる=「うち」は接頭語であるが、広
     々とした所へ出る感じがある。
    揺らく=玉が触れ合ってゆらゆらとさやかな
     音をたてる意だが、ゆったりとしたという
     気分や命が延びそうだという気分を表して
     いる。

作者・・荒木田守武=あらきだもりたけ。1473~15
    49。伊勢神宮宮内神官。連歌を宗祇に師事。

出典・・笠間書院「室町和歌への招待」。


もう空を映す余地なし江津の鴨

(もうそらを うつすよちなし えずのかも)

意味・・江津湖には鴨や白鳥が飛来して来て、湖面
    一杯に浮かんでいる。その数は青色の空を
    映す余地がない程である。

 注・・江津=熊本市水前寺にある江津湖。

出典・・地方新聞。


幸福が 見つかりそうに 朝焚き火
                   星野立子

(こうふくが みつかりそうに あさたきび)

意味・・朝、庭の落ち葉を集めて焚き火をしている。
    一仕事をした心地よさ、早朝の美味い空気。
    焚き火に当っていると、今日一日の幸せの
    始まりが感じられてくる。

作者・・虚子に師事。


おりたちて 今朝の寒さを 驚きぬ 露しとしとと
柿の落葉深く
                 伊藤左千夫 

(おりたちて けさのさむさを おどろきぬ つゆ
 しとしとと かきのおちばふかく)

意味・・朝、庭に降りみて、思いがけない寒さに驚い
    た。いつのまにか晩秋、初冬の姿に一変した
    庭には柿の落葉が深く散りしき、冷え冷えと
    した朝露にしっとりと濡れている。

    きびしい初冬の自然の姿、万物凋落の姿の寂
    寥(せきりょう)感を詠んでいます。

    これからいっそう厳しい冬が来て草木を枯れ
    つくす。寒さがこたえるようになった自分の
    身体にも、枯葉と同じように衰えを意識させ
    られ、寂しさが湧いて来る・・。
    これからやって来る寒さに耐えなくては・・。

    大正元年、亡くなる前年に詠んだ歌です。

 注・・寒さを=「寒さに」と違って、より主情的に
     意外な寒さと捉えている。
    露しとしとと=朝露にしっとりと濡れて。「
     濡れて」を補う。
    柿の落葉深く=柿の落ち葉が重なって散り敷
     いているさま。「深し」とせず「深く」に
     して余韻を持たせ、秋から冬にかけての自
     然の凋落の寂しさを暗示している。

作者・・伊藤左千夫=いとうさちお。1864~1913(大
    正2年)。牛乳搾取業。正岡子規に入門。小説
    「野菊の墓」が有名。

出典・・歌集「ほろびの光」(東京堂出版「現代短歌鑑
    賞事典」)。

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