名歌名句鑑賞

心に残る名言、名歌・名句鑑賞

カテゴリ:日記 > 和歌・短歌・俳句

春遠く ああ長崎の 鐘の音    
                    江国滋

(はるとおく ああながさきの かねのおと)

意味・・浦上天主堂の静かで寂しい鐘の音を聴いていると
    悲しくなって来る。まだまだ、冬は厳しく春は遠
    いのだ。

    長崎は悲劇を背負った地です。キリシタン弾圧、
    原爆投下。88年12月には木島長崎市長が右翼
    の短銃で撃たれた。この時に詠んだ句です。また、
    07年4月に伊藤長崎市長が右翼暴力団により射
    殺されています。
 
 注・・浦上天主堂=長崎にあるカトリック教会。33年も
    年月をかけて1925年完成。原爆投下により崩壊し
    赤レンガの壁が一部残るだけにとなった。浦上地区
    には当時12000人の信徒がいたが8500人が爆死し
    た。1959年再建された。
 
作者・・江国滋=えぐにしげる。1934~1997。慶応義塾
    大卒。評論家。俳人。


何ごとも 時ぞと念ひ わきまへて みれど心に
かかる世の中
                 橘曙覧 

(なにごとも ときぞとおもい わきまえて みれど
 こころに かかるよのなか)

意味・・何事も時が解決してくれると、そのようにわき
    まえてはいるものの、やはり心配な世の中だ。

 注・・心にかかる世の中=この歌では、明治維新の前
     夜というべき時期で、攘夷と開港の問題をめ
     ぐって、国論が騒然としていた世相。

作者・・橘曙覧=たちばなあけみ。1812~1868。明治元年
    は1868年。

出典・・橘曙覧歌集・380。


紫の ひともとゆえに 武蔵野の 草はみながら 
あはれとぞ見る
                詠み人知らず

(むらさきの ひともとゆえに むさしのの くさはみながら
 あわれとぞみる)

意味・・ただ一本の紫草があるために、広い武蔵野じゅうに
    生えているすべての草が懐かしいものに見えてくる。

    愛する一人の人がいるのでその関係者すべてに親しみ
    を感じると解釈されています。

 注・・紫=紫草。むらさき科の多年草で高さ30センチほど。
     根が紫色で染料や皮膚薬にしていた。
    みながら=全部。
    あはれ=懐かしい、いとしい。

出典・・古今和歌集・867。


よそになど 仏の道を たづぬらん わが心こそ
しるべなりけれ
                 藤原忠通
           
(よそになど ほとけのみちを たづぬらん わが
 こころこそ しるべなりけれ)

意味・・どうして他所に仏の道を探し求めたのだろうか。
    我が心こそが仏道の案内者だったのだ。

 注・・しるべ=導。手引き、道案内。

作者・・藤原忠通=ふじわらのただみち。1097~1164.
    太政大臣・従一位。

出典・・詞花和歌集・413。


雪とちり 雲と乱れて よせきつつ いそもとよゆする
沖つ白波
                 村田春海
              
(ゆきとちり くもとみだれて よせきつつ いそもと
 ゆする おきつしらなみ)

意味・・雪のように散り、雲のように乱れ飛んで何度も
    押し寄せつつ、磯の岩の根元を揺るがす沖の白
    波よ。

    千葉県銚子の外海の荒波に感動して詠んでいます。

作者・・村田春海=むらたはるみ。1746~1811。江戸の
    干鰯問屋。家業が没落して歌人・国学者として生
    活を送る。

出典・・百首和歌。


酒杯に 梅の花浮かべ 思ふどち 飲みての後は
散りぬともよし
                大伴坂上郎女
            
(さかずきに うめのはなうかべ おもうどち のみての
 のちは ちりぬともよし)

意味・・盃に梅の花を浮かべて、親しい仲間同士で飲み
    合った後ならば、梅の花は散ってもかまわない。

    飲んで思い切り楽しみましょう、という宴席で
    の挨拶歌です。

作者・・大伴坂上郎女=おおとものさかのうえのいらつめ。
    生没年未詳。大伴旅人の異母妹。

出典・・万葉集・1656。


面影を 忘れむと思ふ 心こそ 別れしよりも
悲しかりけり
               藤原実 

(おもかげを わすれんとおもう こころこそ わかれし
 よりも かなしかりけり)

意味・・辛い事なので、もう思い出すまい忘れようと思う
    心、その方の心が忘れないでいるよりはかえって
    物思いの種である。

    俤(おもかげ)の忘れる事の出来ない別れ、それ
    を思い出す事の辛さより、それを忘れようとす
    る辛さを詠んでいます。

 注・・別れ=恋人との別れ、子供との死別、・・・。

作者・・藤原実=ふじわらのみのる。伝未詳。

出典・・続拾遺和歌集。


降る雪や 明治は遠く なりにけり 
                 
                 中村草田男

(ふるゆきや めいじはとおく なりにけり)

意味・・雪が盛んに降っている。その雪に現実の
    時を忘れ、今が二十数年前の明治のころ
    そのままのような気持になっていた所、
    ふと現実に帰り、しみじみ明治は遠くな
    ってしまったと、痛感するものだ。

      昭和6年の作です。
    雪が降りしきる中、20年振りに母校の小学校
    付近を歩いていた。母校は昔のままと変わらない
    なあと思いつつ、その当時の服装、黒絣の着物
    を着て高下駄を履き黄色の草履(ぞうり)袋を下
    げていたのを思い出していた。
    その時、小学校から出て来たのは、金ボタンの
    外套を着た児童たちであった。
    現代風の若者を見ると、20年の歳月の流れを
    感じさせられる。そして明治の良き時代は遠く
    になってしまったものだ。

作者・・中村草田男=なかむらくさたお。1901~1983。
    東京帝大国文科卒。成蹊大学名誉教授。高浜虚
    子に入門。
 
出典・・句集「長子」(尾形仂篇「俳句の解釈と鑑賞辞典)


訪ひ行くに 好かぬとぬかす 憎い人 
                   島村桂一

回文です。

(トヒイクニ スカヌトヌカス ニクイヒト)

意味・・私が知人の所に訪ねて行くと、お世辞にも
    遠いところを良く訪ねてくれた、とは言わ
    ずにあからさまに嫌な顔をする。憎たらし
    い人だ。

    訪ねる私はこんな人です。

  いねいねと 人にいはれつ 年の暮れ 
           (意味は下記参照)
 
 注・・回文=上から読んでも下から読んでも同音・
     同語になる文句。

作者・・島村桂一=しまむらけいいち。回文作家。

出典・・東京堂出版「島村桂一著回文・川柳辞典」。

参考です。
いねいねと 人にいはれつ 年の暮   
                    路通

意味・・年の暮、人に頼って生活をするような境遇の
    自分は、あちらでもこちらでも「あっちへ行
    け」と言われ、冷たくあしらわれることだ。

 注・・いね=去ね、行け。

作者・・路通=斎部路通(いんべろつう)。1649~1738。
         神職の家柄であったが、乞食となって漂泊の旅
    を続けた。芭蕉に師事。

出典・・歌集「猿蓑」。

踏み分けし 昨日の庭の跡もなく また降り隠す 
今朝の白雪
                日野俊光
          
(ふみわけし きのうのにわのあともなく またふり
 かくす けさのしらゆき)

意味・・踏み分けた昨日の庭の雪に、その足跡もなく
    してしまうように、また降り隠す今朝の白雪よ。

    足跡のない庭の雪が美しいと詠んでいます。

作者・・日野俊光=ひののとしみつ12360~1326。正二
       位権大納言。鎌倉期の歌人。

出典・・玉葉和歌集・961。

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